不動産売却と介護保険料について
「不動産売却により介護保険料が上がる」という話を聞いたことがある方がいらっしゃるでしょう。
これはどういうことなのでしょうか。
今回は,不動産売却と介護保険料の関係についてお話します。
介護保険料について
そもそも,介護保険料とは介護保険制度の財源となるお金で,サラリーマンなどの健康保険加入者であれば毎月の健康保険料に上乗せして支払い,個人事業主などで国民健康保険に加入していれば,国民健康保険料に上乗せして支払っています。
年金生活者であっても年金から天引きされて支払っていますので,原則として,40歳以上であれば,全て介護保険料を支払わなければなりません。
介護保険料の金額は,所得によって決まります。
ですので,所得が上がれば介護保険料も上がり,給与所得や事業所得などに加え,不動産を売却して「譲渡所得」(=不動産を売却したことにより得られる利益)が発生した場合には,当然,翌年の介護保険料も上がっていました。
そこで,「不動産の売却により介護保険料が上がる」ということが言われていたのです。
介護保険料の所得指標の見直しについて
ですが,介護保険料の所得指標が見直され,2018年4月1日以降に不動産を売却した場合,一定の要件を充足すれば,介護保険料は上がらない,ということになりました。
見直しの発端は,東日本大震災です。
東日本大震災により,被災者の方がやむを得ず自宅を売却して転居せざるを得ない事態が数多く発生しました。
そして,被災者の方が土地を売却して利益が出たとしても,転居先で新たに自宅を建てなければならないため実質的な手残りは少ない,あるいはむしろマイナスになることが多々ありました。
にもかかわらず,介護保険料が高額になるというのはあまりに被災者に酷であるとして,今回,見直されることになったのです。
それでは,具体的に,何がどう変わったのでしょうか。
その説明のためには,ここで,一旦介護保険料から離れて,税金の話をしましょう。
我が国の税法に基づく制度の中には,土地や建物を譲渡した場合の特別控除の制度がいくつかあります。
一番有名な制度は『3000万円の特別控除』でしょう。
『3000万円の特別控除』というのは,例えば,所有する中古マンションを売却した際,購入時の価格より高く売れて利益が出た場合,通常は『譲渡所得税』という税金を支払う必要があるところ,売却した中古マンションがマイホーム(居住用物件)であった場合,譲渡所得から最高3000万円まで控除ができるという制度です(この特例を受けるためには,過去2年以内に同じ特例を受けていないことや,実際に売却した中古マンションに住んでいること(少なくとも3年以内まで住んでいたこと)等の条件があります。)。
ですから,例えば中古マンションを売却して2500万円の譲渡所得が発生したとしても,この特例が適用されると3000万円まで控除されるので,結局,売却による利益はない(=所得税はかからない)ということになるのです。
これは,税制上の制度ですので,本来は,介護保険制度とは全くの別物です。
ですので,これまでは,税制上は上記のような免税措置を受けることができたとしても,介護保険料については,特別控除が適用される前の譲渡所得を基準に保険料が算定されていました(上記の例で言うと,2500万円の所得があったことを基準に翌年の介護保険料が決められていました。)。
ですが,今回の見直しでは,介護保険料についても,税制上の制度とリンクさせ,算定基準となる所得は特別控除の適用後とされたため,税法上の減免措置により譲渡所得税がかからない人は,結局,介護保険料も上がらないということになったのです。
つまり,3000万円特別控除によって譲渡所得がなくなる人であれば、2018年4月1日以降,不動産を売却しても介護保険料は上がりません(3000万円特別控除を適用してもなお譲渡所得が残ると翌年の介護保険料が上りますが,3000万円の控除後の所得が基準になりますので,従来の介護保険料の値上がりよりはかなり安くなります。)。
中古マンションの査定について
所有する中古マンションを売却する際,市場価値を査定してもらうかと思います。
不動産売却に伴い,様々な費用が発生しますが,査定段階でどのような費用が将来的にいく発生するかしっかり把握しておくことが必要です。
今回,介護保険料算定の指標が見直され,介護保険料の値上がりが大幅に制限されましたが,例えば,居住用として使用していない中古マンション等を売却した結果利益が生じた場合には,上記の税法上の特別控除の対象外です。
その場合には,翌年の保険料は増加しますので,査定段階で,必ず,翌年の保険料がどの程度アップするのかを試算し,請求が来てから慌てることのないように事前に備えておくことが必要です。
(なお,租税特別措置法に基づく特別控除として,『3000万円の特別控除』のほかにもいくつか制度がありますので,査定時に,今回の売却が特別控除に該当するか,調べておきましょう。)