『所有している中古マンションの売却を考えています。
現在,このマンショは人に貸しているのですが,貸したままの状態で売れますか。』
先日,こんな質問を頂きましたので,今回は第三者に賃貸している中古マンションの売却についてお話しましょう。
第三者に賃貸している中古マンションの売却について
結論から言えば,借主が住んでいる状態でも,中古マンションを売ることができます。
その場合の法律関係ですが,例えば,Aが所有する中古マンションをBに貸しているという状態で,AからCにマンションを売却した場合,Aの貸主としての地位は,当然にCに引き継がれます。
ですので,マンション売却後は,CとBとの間で賃貸借契約が成立していることになり,Cは所有権移転登記さえ済ませていれば,特にBに承諾を求めたり,断りを入れるまでもなく,毎月の賃料を請求することが可能となるのです。
ただ,借主が居住している以上,その中古マンションはあくまでも『投資用物件』としての売却になりますので,一般の中古マンション市場での売却とは事情が異なります。
『投資用物件』の売却で重視されるのは『利回り』です(『利回り』とは,満室時の年間賃料÷マンションの購入価格で算出される数字です。)。
そこで,今現在,売却しようとする中古マンションを借主にいくらで貸しているのか,ということがとても重要になってきます。
もしも,売却を考えている中古マンションに借主が居住している,という場合には,まずは複数の不動産業者にその市場価値を査定してもらってください。
(一つの不動産業者の査定だけでは正確な市場価値が反映されない可能性もありますので,必ず複数の業者による査定を求めた上で,複数の査定結果から現在の市場価値を判断することが必要です。)
賃貸市場の相場よりも安く貸している場合について
ところで,「所有する中古マンションを親戚に格安の賃料で貸している」という話をよく聞きます。
このような賃貸市場の相場よりも安く貸している中古マンションは,『利回り』がよくありませんので,いざ売却しようと思った時,格安賃料は売却の足かせになります。
「私は親戚なので賃料を上げたいと言えないけれど,売った後で,買主が賃料を上げれば良いではないか」と簡単に考えている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが,借主と全く縁故のない第三者が買主となったからと言って,突然,一方的に賃料を上げることはできません。
賃貸借契約における賃料は貸主と借主の合意で決まっており,いったん決まった以上,後になって,貸主の一方的な意思によって増額変更することはできないのです(先ほどご説明したとおり,マンションの買主は,貸主としての地位をそのまま前所有者から引き継ぎますので,いったん決まった賃料は高かろうが安かろうが,そのまま買主に引き継がれるのです。)。
賃貸借契約の賃料を上げるには,借主が合意するか,合意をしないのであれば,賃料増額調停をするしかありません(調停でも借主がイエスと言わなければ,最終的には訴訟をするしかありません。)から,いったん決まった賃料を上げるというのは極めてハードルが高いのです。
ですから,賃貸市場の相場よりも安く貸しているという事情は,査定にはかなりマイナスになり,査定結果は当然低くなります。
もしも売却を希望する中古マンションを相場よりも安く貸している,という場合には必ず査定前に相場の賃料に戻してから売却する,あるいは査定前に賃貸借契約を終了・借主を退去させてから売却をした方が良いでしょう。
賃貸借契約の終了について
相場の賃料に戻すことが極めてハードルが高い,ということは先にご説明したとおりです。
それでは,賃貸借契約を終了させ,借主を退去させることはどうでしょうか。
「所有する中古マンションを賃料相場よりも安く貸している場合には査定金額も低くなってしまうのであれば,契約期間満了を待ってから売却しよう。」と考える方もいるかもしれません。
しかし,残念ながら,通常の賃貸借契約の場合,契約期間が満了したとしても借主が引き続き借りたいと言えば,法律上,賃貸借契約は当然に更新されてしまいます(これを『法定更新』と言います。)。
これは,契約書に「契約期間満了後は,貸主と借主の合意で契約を更新することができる」などという条項が設けられていたとしても同様です。
このような条項があれば,貸主が合意しなければ契約は更新できない(賃貸借契約は期間満了をもって終了する),と考えている方も多いと思いますが,現在の法律では借主が手厚く保護されており,よほどの事情がない限り,貸主側から更新を拒絶することはできないのです。
そして,中古マンションの売却,というのは貸主から賃貸借契約の更新を拒絶する事情にはなりえません。
ですから,たとえ契約書どおり,事前に「今回,賃貸借契約は更新しない」という通知を出していたとしても,契約期間満了後も借主が引き続きマンションに居住し続ければ,賃貸借契約はそのまま更新・継続され,借主を退去させることはできないのです。
それでは,どうすれば賃貸借契約を終了させて借主を退去させれば良いのか,というと,それは借主と交渉するしかありません。
もちろん,借主に賃料の未払いがある,物件をゴミ屋敷にしている等,こんな借主にはとてもマンションを貸しておけない,というような信頼関係を破壊する事情があれば話は別ですが,契約で決められた目的に従ってマンションを使用し,賃料を支払っている以上,借主の合意なくして退去を求めることはできないのです(ですので,最終的には立退料を支払う等して退去してもらうことになるでしょう。)。
そこで,もしも将来的に売却を検討している中古マンションを第三者に貸そうと考えている場合には,必ず『定期賃貸借契約』を結ぶことをお勧めします。
『定期賃貸借契約』というのは,先ほどご説明した『法定更新』の制度が適用されず,契約期間の満了によって,必ず賃貸借契約を終了させることができる制度です。
『定期賃貸借契約』の場合,賃料は通常よりも安くなってしまうというデメリットもありますが,いざマンションを売却したい時に借主を退去させられない,というデメリットに比較すれば,ある時期に確実に退去させられる,というメリットが勝ると考えます。
『定期賃貸借契約』を結んでいる場合には,決められた時期に確定的に賃貸借契約は終了させられますので,投資用物件としての売却も可能ですし,契約終了後に一般の中古マンション市場で売却することも可能でしょうから,いずれが良いか,査定をしてもらってから自由に選択することができるでしょう。