親の経営していた賃貸アパートを相続して「このまま経営して成功するのか?」「処分したい場合はどうしたらいいのか」と悩む方は非常に多いです。
今回は相続したアパート経営について不動産会社のスマートアンドカンパニーが解説します。
以下のことを知りたい人向けの記事となっています。
・相続築古アパートの経営戦略のたて方
・経営か売却かの判断基準
・相続放棄した方がいいケース
Contents
相続したアパート経営を成功させるためにやること
アパート経営は事業ですので常に収支を意識しておく必要があります。毎月出ていく金額が多く、家賃収入が少なければ早期の破綻は目に見えています。
支出より収入が上回りキャッシュフローがプラスの状態であれば、急な修繕や税金の支払いに充てる事が出来るので経営が成り立ちます。
相続した時点でアパート経営の状態が良く満室状態であっても、建物は年数が経つにつれて修繕費用もかかるようになります。設備が古くなると人気がなくなり空室が増えてきますので計画的な経営が必要です。
すでに空室が多い築古アパートを相続した場合には、まず空室を埋める対策を考えるべきでしょう。
リフォームや修繕などは必要ですが費用を掛けすぎると経営が立ちゆかなくなります。アパート経営では費用と効果のバランスをうまく取る必要があります。
アパート経営を相続したら収支を悪化させないためにまずやるべきことや、キャッシュフローをプラスにするための改善点のヒントなどをご紹介していきます。
入居者のターゲットを設定する
相続アパートの空室対策として、まずは入居者のターゲットを設定しましょう。
賃貸物件の供給が増えている現状では新しいアパートに人気が集まります。
築古アパートは特に家賃の安さ以外に新築物件にない特徴が必要となるのです。
アパートのターゲットを設定することで、他の物件との差別化が期待できます。
ターゲットの設定は例えば以下のようなものが考えられます。
働く女性向け
学生向け
ペットを飼いたい人向け
生活保護受給者向け
外国人向け
アパートの建っているエリアや元々のアパートの広さなど、特性を踏まえた上で絞り込んでみてください。
ターゲットを絞り込んだら、ターゲットのニーズに合わせて、最低限のリフォーム・修繕・設備の導入を行います。
大掛かりなリフォームや修繕をする必要はありません。例えば学生向けにするのなら、wifiを導入して無料wifi付きの物件にするといった程度でいいのです。
ターゲットを絞って物件を差別化すれば、よりアピールしやすくなります。少ない費用でも十分な空室対策ができます。
アパートの問題点を見極め最小限の費用で改善する
アパートの問題点を洗い出し、改善策を考える事も重要です。
改善はできるだけ最小限の費用ですぐに効果が出そうな部分から着手します。
いくつかの改善例をご紹介しますので、アパートの問題点を改善するヒントにしてみてください。
問題点:共有部分の照明が暗い
対策:共用部の電球を明るくする
共用部分の照明が暗い場合は、見た目も防犯上の観点からも良くありません。すぐに交換を検討してください。
アパートの照明が点灯するのは夜ですので、気がつきにくい部分です。築古のアパートを相続したら一度確認してみましょう。
電球色を明るい色に交換するだけでかなり印象が変わります。電球や蛍光灯の頻繁な交換や電気代が気になりますので、これを機にLEDへの交換を検討しても良いと思います。
アパート改善の例2
問題点:ゴミ置き場が汚い
対策:蓋付きのゴミ捨てボックスを設置、防犯カメラの設置
ゴミ捨て場が汚れているアパートはそれだけで敬遠されがちです。ゴミ置き場の汚れが目立つ場合は早急に手を打った方が良いでしょう。
ゴミ捨て場が汚れてしまう原因は、未分別ゴミの放置、カラスの被害によるゴミの散乱が主です。
対策としては、蓋付きのゴミ捨てボックスを設置し、居住者の方へのゴミ出しルールのアナウンス、定期的なチェックと清掃が必要です。
築年数の古い賃貸アパートで24時間ゴミ出し可能な物件は少ないため、アパート内に専用のゴミステーションを設置することで、差別化がはかれる可能性が大きいです。
ただし、ゴミ置き場の設置には、エリアによって細かく決まりがある場合があります。設置前に清掃事務所に届出や確認が必要です。
ルールをアナウンスしていても居住者がルールを守らなかったり、外部の人が分別していないゴミを捨てていくケースもあります。
そういった場合は防犯カメラの導入が効果的です。防犯カメラは安いものであれば1万円程度で設置が可能です。
費用の捻出が難しい時は実際の防犯カメラではなくフェイクのものでも不法投棄を防ぐ抑止力として期待出来ます。
アパート改善の例3
問題点:昭和時代の古い設備が残っている
対策:部分的に新しい設備に交換する
若い人をターゲットにしている場合は特に、古い設備は敬遠されがちです。
全部の設備を新しくしてしまうと費用が掛かりすぎてしまいますので一部の目立つ部分のみを交換してみましょう。
例えば便座だけをウォシュレット付きに交換したり、ハンドル式の混合水栓をシングルレバー混合水洗に交換したりすれば、使い勝手も良くなる上に、見た目の古臭さが軽減されます。
アパート改善の例4
問題点:駅から遠い
対策:自転車と最寄駅の駐輪場付きで貸し出す
入居者が部屋を選ぶ際に気になるのは最寄り駅までのアクセスです。駅から遠いといった立地のデメリット自体は変える事ができません。相続したアパートの立地が悪く、空室が多い場合は思い切った手も必要です。
例えば、最寄り駅の駐輪場を確保した上で自転車付きの物件にして貸し出すという手もあります。自転車が無料、最寄り駅の駐輪代も不要、さらに家賃が手頃であれば、入居のメリットが大きいと感じてくれるでしょう。
最終目的の売却時期を明確にしてから修繕費を決める
相続したアパートを経営していく上でリフォームやメンテナンスは欠かせませんが、かける費用は家賃で回収できる範囲にしないと赤字になってしまいます。
「3年後に売却する」といったように、まずは経営する期間を決めてそれまでに回収が見込める範囲の費用で設備の投資や修繕をしましょう。
また、売却までに出来るだけ資産価値を高めて経営していくことを意識してください。売却時に空室がなく入居者で埋まった状態だと収益物件として不動産投資家に高い価格で売却することができます。
適切な修繕を行い、出来るだけ空室が少ない状態にしておくことを心がけましょう。
ただし、空室が目立ち立地も良くない築古物件では、修繕費を掛けて運営を続けるよりは更地にした方が買い手の付きやすいこともあります。
更地で売却する場合は入居者に立退いてもらう予算を確保する、解体までの間に新たな入居者が入居する際は定期借家契約にするなどの対策が必要です。
アパートを経営するには、事業としての計画が大切です。目的と達成時期を明確に設定することでより具体的なプランを描くことが可能になるのです。
余談ですが、賃貸アパート経営の「最終目的」は、具体的に以下の3つがあります。相続したアパートの場合は「売却する」が最適解でしょう。
・アパートの「建替え」
・アパートを「子どもに引き継ぐ」
・アパートを「売却する」
「建て替え」「子どもに引き継ぐ」をおすすめできない理由は以下の通りです。
アパートを取り壊して新築に建替える場合は、家賃も今より高めに設定出来、一見利回りは良さそうに見えます。しかし、人口の減少が続く一方で新たな賃貸物件の供給は増えている現状では、ローンを組んで新築アパートを建設するメリットの方が少ないでしょう。新築して4~5年経つと家賃収入は2割ほど下がってしまいます。家賃は下がるのに、ローンの支払いや修繕費などでキャッシュフローのマイナス状態に陥る可能性があります。中古アパートを経営していると、相続税の節税のメリットを強調して新築建設を勧めてくるハウスメーカーの営業も多いかもしれませんが、良い点ばかりを強調する営業には注意が必要です。都心部の駅近物件などで今後も賃貸需要が見込める一部のケースを除いては、新築アパートへの建替えは避けた方が無難でしょう。
相続した時点で既に築年数が経っているアパートですので、相続が発生した時点では更なる築古物件となっています。受け継ぐ子どもにとっては負の遺産になりかねません。子どもがまだ成人していない場合はそもそもアパート経営に興味があるかどうかもわかりませんし、遠くで暮らしている場合もあるでしょう。子どもが相続した後でアパートを売却するにしても、空室だらけの築古物件では売却すら出来ない可能性が高いです。更地にするにもコストや手間が掛かってしまいます。
一括借り上げを見直す
キャッシュフローをプラスにするためには、出ていく経費を減らす努力も大切です。
相続アパートが一括借り上げ契約をしている場合には、解約して自主管理にするか、管理委託にするなどを検討してみましょう。
一括借り上げとは、アパート一棟を不動産管理会社に借り上げてもらう契約です。アパートを借り受けた会社は、オーナーに代わって入居者を募集し又貸し(サブリース)します。家賃回収やアパートの管理などは一括借り上げ会社が行います。オーナーにとってのメリットは、契約期間中は空室の有無にかかわらず毎月一定額の保証賃料を受取る事ができる点でしょう。また、賃貸業務を丸投げ出来るので手間がかかりません。デメリットは管理手数料分だけ収入が少なくなるという点です。オーナーの収入は、一括借り上げ会社に本来の賃料から手数料を1~2割引かれた額になります。礼金や更新手数料も一括借り上げ会社が受取ります。つまり、賃料収入のうち10%~20%をコストとして支払っている事になります。
さらに一括借り上げ会社がオーナーに支払う賃料は数年おきに引き下げが提案されます。受け取れる賃料が徐々に減っていくのです。
一括借り上げ会社との契約を解約したい場合は、契約書の解約条件をまず確認しましょう。解約できる条件は会社によって異なりますが、多くの場合3ヶ月から6ヶ月前に通知することが必要とされます。解約の通知は口頭ではなく書面で行うようにしてください。ただし、途中解約が出来ない契約を結んでいる場合もありますし、収益が出ている物件の場合は一括借り上げ会社が解約を拒否する可能性もあります。
もしも途中解約できない場合は、賃料の引き下げ幅を出来るだけ少なくするように交渉してみましょう。
相続したアパート経営を売却か相続放棄した方がいいケース
アパートの状態によっては、早期の売却を考えた方が良いケース、そもそも相続せずに相続放棄した方が良いケースもあります。
経営か売却か相続放棄か判断方法
相続したアパートのローンの残債
相続が発生したらすぐにアパートのローンが残っているかを確認しましょう。
相続の場合は財産だけではなく借金も引き継ぐことになります。
故人がローンを組む際に団体信用生命保険に加入していれば、残債は保険から支払われることになります。自宅のローンでは加入する場合がほとんどですが、収益アパートでは加入していないケースもあります。
故人の保管しているローン関連の資料が見つからないなど、相続したアパートのローンがどうなっているか分からない場合もあるでしょう。ローンの有無は全国銀行協会で手続きすれば銀行関係の借入状況を確認することができます。情報開示の手続きは郵送でも可能です。
アパート経営にかかる経費
アパートを運営していくには、様々な支出があります。共用部の光熱費、清掃や維持管理を委託している場合には管理費、保険料や固定資産税、リフォーム代などです。
相続アパートが築浅だった場合はまだ必要ないかもしれませんが10年以上経過した物件では大規模な修繕が必要になります。毎月の支出、年毎の支出、大規模修繕にかかる費用などをしっかりと確認しておくべきでしょう。
家賃滞納者はいないか
家賃を滞納している入居者の有無も確認しましょう。
親の経営していたアパートを相続したら10年以上家賃を滞納している居住者がいたという場合もあります。未払いの家賃を支払ってもらう請求権は、5年で時効が成立し消滅してしまいます。立ち退いてもらうにも、手続きや交渉など大変な労力がかかります。
家賃の滞納は気がついた時点ですぐに対応を取ることが大切です。滞納を長期間放置したままの入居者がないかしっかりチェックしましょう。
黒字経営か赤字経営か
月々の家賃収入とローン返済、経費を差し引いてアパート経営が黒字なのか赤字なのかを確認しましょう。
賃貸アパートは、法定耐用年数(木造であれば新築より22年間)が終わるまで減価償却費を経費として計上することが出来ます。実際に支出していない分を費用とする事ができるため、キャッシュフローがプラスであっても帳簿上は赤字になることもあります。
ただし、実際のキャッシュフローがマイナスの状態であれば、故人の私財を取り崩して補填していた可能性があります。赤字のアパートを相続すると今度は自分の私財から補填することになるでしょう。
また、黒字であっても、アパートの家賃収入からローン返済や経費などを差し引いたキャッシュフローがわずかだという場合も要注意です。今後家賃収入は下がる可能性が高く、ローン返済期間がまだ何年もある場合は早々に赤字に転落する危険性があります。
経営するアパートの相続税
アパートを相続して相続税が発生するのかも確認しておきたいところです。
相続税は、現金や自宅、賃貸不動産など故人の財産をすべて合計した額が基礎控除額を超えてしまう場合に発生します。
相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できます。つまり、法定相続人が1人なら基礎控除額は3600万円です。預貯金や株式、不動産など故人が所有していた財産の総額から負債を引いた額が基礎控除額に収まっていれば、相続税は発生しません。
現金や預金などはそのままの額が評価されますが、不動産の場合は時価よりも低く評価されます。賃貸アパートでは、土地や建物の評価額は、賃貸物件ではない不動産と比較するとさらに低く評価されます。他人に貸している不動産を所有していれば、その分財産の評価を下げる事ができるのです。
相続アパートの相続税評価額の計算方法は難しい計算になります。
以下で詳しく解説していますので参考にしてください。
売却した方がいいケース
相続したアパートの状態を確認してみて、以下に当てはまる場合は売却を検討した方が良いでしょう。
・ローンの残債があるが売却すれば返済出来る
・近く大きな修繕が必要だが、手持ちの資金がない
ただし、相続後すぐに売却してしまうと、国税庁から租税回避行為とみなされてしまう場合もあります。
実際に国税庁から相続税の支払いを免れたと指摘された資産家のケースをご紹介します。
資産家が融資を受けてある不動産を購入し、3年後に相続が発生します。ローンの負債分と資産が相殺され相続税の支払いはゼロでした。相続人は相続した不動産を1年以内に売却します。不動産は購入金額に近い価格で売却が可能でした。
先に説明したように、相続財産としての不動産は実際の時価よりもかなり低く評価されます。今回のケースでは、この評価方法が国税庁から認められず、不動産は実際の時価で評価するべきとされました。
紹介したケースでは、資産家であるのに相続税の支払いが全くない事が大きな要因だったのかもしれませんが、相続アパートの売却には注意が必要でしょう。特に相続したアパートが相続税対策のために購入された物件の場合や、3年以内に取得された場合には相続後すぐに売却するのは避けた方が良いでしょう。
相続放棄した方がいいケース
相続する前に放棄した方がいいケースもあります。
・キャッシュフローがマイナス
・売却してもローンが返済出来ずに残債が残る
キャッシュフローがマイナスのアパートを相続した場合、収入よりも出ていく額が大きいため自分の資産を取り崩していく事になります。
ある程度自分の資産に余裕がある状態であれば立て直しも可能かも知れませんが、そうではない場合は負の遺産となっていまします。
負債が多いのに売却するのも難しいアパートは、相続してしまうとローン負担が重くのしかかってきます。そういった場合には相続せずに放棄を検討した方がいいでしょう。
ただし相続放棄する場合には、マイナスの遺産だけでなく全ての遺産を放棄することになります。また、一度放棄してしまうと後で他の財産が見つかった場合でも取り消すことは出来ません。
相続放棄には相続の発生後3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。相続人同士の話し合いだけで放棄を宣言しても、法的には認められませんので注意しましょう。
まとめ
相続したアパートを経営する時のポイントをまとめました。
・ターゲットを設定してターゲットに合わせた修繕をして経営する
・修繕にかける費用は売却時期を決めて回収できるだけにする
・大きな修繕が必要で手持ち資金が無い時、キャッシュフローがマイナスの時は早期売却や相続放棄も視野に入れて