所有する中古マンションを第三者に賃貸していたところ,まとまったお金が必要になったためにマンションを売却することになった,という話をよく耳にします。もともと投資用マンションとして,誰かに賃貸している中古マンションを購入したという場合は別にしても,当初は居住用物件として購入したものの,居住の必要がなくなったマンションを誰かに貸し,その後売却するということは決して珍しくはありません。 そこで,今回は第三者に賃貸中の中古マンションの売却について不動産会社スマートアンドカンパニーがお話します。
記事でとりあげるのは以下の内容です。
- 賃貸中マンションを売却する2つの方法
- 賃貸中マンションの売却手順
- 賃貸中マンションをオーナーチェンジで売却する場合の注意点
賃貸中のマンションを売却する方法
賃貸用より居住用マンションの方が高く売却できる
マンションを賃貸中のまま投資用物件として売却する場合と、居住用物件として売却する場合では、査定方法が大きく変わることになります。一般的には、居住用として売却する方が賃貸中のまま投資物件として売却するよりも高く売却出来る傾向にあります。一般の購入者と違って、賃貸中のマンションを購入する投資家は何よりも利回りを重視します。あまり高い売却価格のマンションは利回りが低くなるため買い手がつきません。賃貸中のマンションを売却する場合に、査定サイトで査定することは可能ですが、査定価格は一般居住用の住宅と比べて安くなってしまうことを頭に置いておいた方がいいでしょう。
賃貸中のマンションの査定額が気になる方は、一括査定サイトから複数の不動産会社に査定を依頼することで相場価格を知ることができます。多くの方が利用している人気の一括査定サイトがわかる最新人気ランキングを利用して一括査定サイトを探してみて下さい。
他のオーナーに売却する(オーナーチェンジ)方法
中古のマンションの売却広告を見ていると、たまに「オーナーチェンジ物件」と書かれた広告を目にすることもあるかと思います。これは、賃貸中のままマンションを売却する場合の広告です。賃貸中のマンションは投資用の物件として売りに出されることになります。このような投資用マンションの購入を検討している買主は、自分の居住用ではなく賃貸料で収入を得ることを目的としています。
通常、賃貸で収入を得るには、購入した後で不動産会社を通じて入居者を募集しなければなりません。入居者が決まらなければ、その間の家賃収入はゼロです。しかし、賃貸中の物件であれば、入居者の募集活動をしなくてもいいですし、購入すればすぐに賃借料が収入として手に入ります。ですから、家賃の滞納など特別な問題がなければ喜んで購入してくれる投資家もいるでしょう。
しかし、賃貸中のマンションを売却する場合はデメリットもあります。それは、査定の金額です。賃貸中のマンションを査定する場合には、投資用物件として査定をすることになります。この際、収益還元法によりマンションの売却価格を算出します。収益還元法という査定方法は、その賃貸中の物件が将来生み出すであろう収益を予測してその期待利回りに基づいてマンションの査定価格を決める方法になります。ですから、高い賃料で借りてくれる物件は高い査定価格に、一方低い賃料しか見込めない物件は低い査定価格となってしまいます。
また、賃貸物件として売却する場合は販売対象が投資家に限定されしまう点もデメリットでしょう。
借主に退去してもらって売却する
賃貸中の入居者に退去してもらって空き家になった状態であれば、一般の居住用の物件として売却出来ます。居住用の物件として査定する場合には、取引事例比較法という方法で査定されます。取引事例比較法というのは、査定するマンションの近隣エリアの似たような物件の過去の取引状況を元に、周囲の状況やマンションの状態などを加味して売却価格を査定します。
賃貸中のマンションを売却する手順
実際に売却すると決めたら、まず何をすれば良いのでしょうか?通常の物件売却であればまずは一括査定サイトを利用して査定をとり、不動産会社と契約を結ぶといった流れで進んでいきます。賃貸中のマンションを売却する場合は通常とどこが違うのか、ご紹介していきましょう。
- step1複数不動産会社への査定依頼
- step2媒介契約
- step3売却活動
- step4売買契約
- step5引渡し決算・新オーナーへの賃貸契約の引き継ぎ
- step6借主への通知
オーナーチェンジにより賃貸中のマンションを売却する場合、実は通常の売却と大きな流れは同じです。査定をとり、不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を進めていくという流れです。
通常の売却と異なるところとしては、売却が無事に決まって物件を引き渡す際に、物件の権利のほかに賃貸契約についても引き継ぎをする必要があります。具体的には「家賃明細書」と「賃貸借契約書」を準備して買主に引き渡す必要があります。
なおオーナーチェンジ物件の場合、投資用物件としての売却となるため通常物件よりも購入希望者が限られます。そのため、なかなか買い手がつかないというケースが出てきます。急いで売却したい場合には買い手がつくのを待つのではなく、業者買取という方法もあります。オーナーチェンジ物件を専門に扱う業者もありますし、専門ではなくてもオーナーチェンジ物件の売買を積極的にやっているところもあります。こういった業者に買い取ってもらう形であれば、比較的スピード感を持った売却が可能です。
賃借人に対してオーナーが変わったことを通知するのは売却後となります。売主と買主の連名で「賃貸人の地位承継通知書」という書面を送付します。
借主に退去してもらう場合の売却手順
相場の賃料に戻すことが極めてハードルが高い,ということは先にご説明したとおりです。
それでは,賃貸借契約を終了させ,借主を退去させることはどうでしょうか。「所有する中古マンションを賃料相場よりも安く貸している場合には査定金額も低くなってしまうのであれば,契約期間満了を待ってから売却しよう。」と考える方もいるかもしれません。
しかし,残念ながら,通常の賃貸借契約の場合,契約期間が満了したとしても借主が引き続き借りたいと言えば,法律上,賃貸借契約は当然に更新されてしまいます(これを『法定更新』と言います。)。これは,契約書に「契約期間満了後は,貸主と借主の合意で契約を更新することができる」などという条項が設けられていたとしても同様です。
このような条項があれば,貸主が合意しなければ契約は更新できない(賃貸借契約は期間満了をもって終了する),と考えている方も多いと思いますが,現在の法律では借主が手厚く保護されており,よほどの事情がない限り,貸主側から更新を拒絶することはできないのです。そして,中古マンションの売却,というのは貸主から賃貸借契約の更新を拒絶する事情にはなりえません。ですから,たとえ契約書どおり,事前に「今回,賃貸借契約は更新しない」という通知を出していたとしても,契約期間満了後も借主が引き続きマンションに居住し続ければ,賃貸借契約はそのまま更新・継続され,借主を退去させることはできないのです。
どのようにして賃貸借契約を終了させ借主を退去させれば良いのか,というと,借主と交渉するしかありません。もちろん,借主に賃料の未払いがある,物件をゴミ屋敷にしている等,こんな借主にはとてもマンションを貸しておけない,というような信頼関係を破壊する事情があれば話は別ですが,契約で決められた目的に従ってマンションを使用し,賃料を支払っている以上,借主の合意なくして退去を求めることはできないのです(ですので,最終的には立退料を支払う等して退去してもらうことになるでしょう。)。
そこで,もしも将来的に売却を検討している中古マンションを第三者に貸そうと考えている場合には,必ず『定期賃貸借契約』を結ぶことをお勧めします。
『定期賃貸借契約』というのは,先ほどご説明した『法定更新』の制度が適用されず,契約期間の満了によって,必ず賃貸借契約を終了させることができる制度です。『定期賃貸借契約』の場合,賃料は通常よりも安くなってしまうというデメリットもありますが,いざマンションを売却したい時に借主を退去させられない,というデメリットに比較すれば,ある時期に確実に退去させられる,というメリットが勝ると考えます。
- メリット :確実に退居してもらう事ができる
- デメリット:賃料は通常より安い
『定期賃貸借契約』を結んでいる場合には,決められた時期に確定的に賃貸借契約は終了させられますので,投資用物件としての売却も可能ですし,契約終了後に一般の中古マンション市場で売却することも可能でしょうから,いずれが良いか,査定をしてもらってから自由に選択することができるでしょう。
賃貸中のマンションを売却してオーナーチェンジするときの注意点
賃貸中のマンションを売却する場合も通常の売却とあまり手順は変わらない、と上でお伝えしました。ただし注意しておくべき点がいくつかあります。
月の途中で売却したら家賃はどうなる?
賃貸中の中古マンションを売却した際に問題となるのは,家賃の清算です。
先払いされている家賃は売却代金から差し引かれる
というのは,現在の賃貸実務上,家賃の支払時期は先払い(例えば,毎月28日までに翌月分家賃を支払うなど)とされていることがほとんどです。ですので,仮に,AがCに対して,4月10日に中古マンションを売却したという場合,4月9日までの分の家賃はAが取得し,4月10日以降の家賃はCが取得することになるはずですが,家賃が先払いの場合には,実際には4月分家賃は既に全額Aに支払われていることになります。その場合には,AからCに対して,既に受領済みの4月分家賃のうち,4月10日以降の日割り家賃相当額を支払う必要があります。家賃の清算方法は,一般的には物件引渡しの決済の際に売却代金から差し引かれるのが一般的です。
通常の居住用マンションの賃貸の場合には,日割り家賃相当額は,それほど高額にはなりませんし,実際の売買日が決まらなければ金額は分かりませんが,予め査定時に,査定金額どおりに売却できたとしても,いずれそのような費用が発生して査定金額から差し引かれる可能性があることは頭に入れておきましょう。
なお,売却時に家賃の滞納があった場合,先ほど説明したとおり,滞納家賃は当然には買主には引き継がれません。ですので,売却前の滞納家賃について買主が引き継ぐ場合には,売主から別途「債権譲渡」を受ける必要がありますので,注意が必要です。
敷金はどうなるのか
賃貸借契約を締結する際,賃借人から賃貸人に対し,『敷金』が差し入れられることが一般的です。敷金は,オーナーチェンジによってどうなるのでしょう。
敷金は新オーナーへ引き継ぐ必要がある
結論から言えば,オーナーチェンジによって賃貸借契約が新所有者に引き継がれた場合,特段の事情がない限り,敷金も新所有者に引き継がれる,というのが裁判所の判断です。ですので,新所有者は,中古マンションの所有権を取得した後,いずれ賃貸借契約が終了して賃借人が退去した際,賃借人に対して敷金の残余を返還する必要があります。
家賃と同様に、敷金の引き継ぐ方法は売買代金の決済の際に差し引かれるのが一般的です。売却する中古マンションの代金と敷金を相殺し,敷金相当額を差し引いた売買代金が支払われることになります。
例えば,中古マンションを3,000万円で売却することになり,敷金が25万円という場合,実際に買主が売主に交付する金額は2,975万円になります。マンションの1室であれば,敷金もせいぜい賃料の数か月分ですが,商業用物件であれば敷金もかなり高額なはずです。もしもあなたが賃貸中の中古マンションの売却を希望している時は,査定時に査定金額から敷金を差し引いて計算することを忘れないようにしましょう。
家賃の滞納があった場合は?
賃借人による家賃の滞納があった場合は、滞納家賃の請求や敷金はどうなるのでしょうか?
滞納分は新オーナーに引き継がれない
例えば,Aが,所有する中古マンションをBに対して月10万円で賃貸し,その際,敷金として25万円を預かっていたというケースで,その後,AがCにマンションを売却したところ,その際,Bが1か月分の家賃を滞納していた,という事例で考えてみましょう。
このようなケースについて,まずはBの滞納家賃の扱いですが,これは,Cには引き継がれません。つまり,「1か月分の滞納賃料を払え」,という請求はあくまでもAからBに対してのみ可能であり,CからBに請求することはできないのです(もちろん,売却により所有権が移転した後にBが家賃を滞納した場合には,Cは売却後の滞納家賃についてBに請求することは可能です。)。そして,Aはこの滞納家賃について,マンション売却時に敷金から充当することが可能です。つまり,Aは,Bから預かっている敷金25万円について,Bの滞納家賃10万円分を差し引いた上,残りの15万円分をCに引き継ぐことになるのです。
借主が要注意人物だった場合は事前に言ったほうがいい?
中古マンションを賃借人に貸しているが,賃借人が賃料を滞納している,近隣とたびたび問題を起こすトラブルメーカーである,ゴミを室内に持ち込みゴミ屋敷になっている・・・というようないわゆる不良賃借人であるような場合,マンションを売却できるか,という相談をよく受けます。この点,どんな賃借人であっても,理屈としてはこれまでお話したとおりですので,マンションを売却すること自体は可能です。
隠したままマンション売却はできない
ただ,このような賃借人の特性を隠したままマンションを売却することはできません。隠したまま売却し、後で発覚した場合には当然契約解除等の問題が生じます。不動産会社が仲介している場合には,重要事項説明義務違反を問われるおそれもあります。そのような不良賃借人が居住している中古マンションを購入するという人はそもそも少ないでしょうし,それでも構わないという買主は,当然,賃借人を退去させる費用を差し引いて売買代金を交渉してくるでしょう。買主は,自ら賃借人を退去させるための費用と手間を考慮して売買代金を計算しますので,かなり買い叩かれることを覚悟してください。
というのは,このような不良賃借人は,出ていって欲しいと言って素直に出ていく方が稀ですので,退去させるには通常は裁判手続が必要になります。この時,賃借人を退去させてからマンションを売却するか,退去させずにそのまま売却するかはその時の判断になりますが,通常は,退去させてから売却する方が,金額面だけを考えれば裁判に係る費用をプラスしてもなお,得になるでしょう。
ただ,裁判をするとなると,場合によってはかなり時間もかかります。売却金額が安くなったとしても早くに売却してしまいたい,という方は,そのままの状態で売却せざるを得ないかもしれません。
中古マンションを売却する場合,まずは,マンションの査定を依頼するかと思いますが,簡単な査定では,このような不良賃借人の要素を考慮した査定はできません。ですので,査定後,実際に売却の仲介を依頼するまでの間に,併せて不良賃借人を退去させる費用についても弁護士に相談することをお勧めします。
賃借人を退去させる理由が家賃の滞納なのか,近隣住民とのトラブルなのか,ゴミ屋敷なのか,賃貸借契約の解除理由によって,裁判費用は大きく異なってきます。また,素人目には,こんな不良賃借人は裁判をすればすぐに追い出せるであろうと思っていても,今日,賃借人は強く保護されていますから,専門家から見れば裁判をしても退去させられる見込みは低いというケースもよくあります。
査定金額はマンション売却を検討する上で,非常に重要な判断資料ですが,マンションに不良賃借人が居住しているという場合には,査定金額だけではマンション売却を決断することは危険です。マンションの査定価格だけを見て売却を決めた場合に,後になって,高額な裁判費用がかかってしまった,あるいは売却金額が査定金額から大きく下がってしまった,ということになりかねません。そこで,まずは,査定を経てマンションの市場価値を把握した上で,査定金額が希望の売却金額であったとしても,その後,実際に不良賃借人を退去させるための費用と手間を考慮して,売却するにはどうすれば良いか検討しましょう。
まとめ
第三者に賃貸しているマンションを売却する2つの方法と注意点についてみてきました。
オーナーチェンジ物件として借主はそのままで売却する方法と借主に退居してもらってから売却する方法があります。それぞれメリットデメリット、注意点などがありますので売却する際の参考にして下さい。
売却の方法 | メリット | デメリット | 注意点 |
オーナーチェンジ | 借主と交渉する必要がない | 買い手がつきにくい場合がある | 物件引渡し時に敷金家賃の精算が必要 |
借主に退居してもらう | 幅広く買い手を募れる | 借主と交渉する手間がかかる | 立退き料が必要となる場合も |