錯誤(勘違い)が原因で相続を放棄することはできるのか?

錯誤による相続の放棄


 錯誤とは、錯覚と誤りという字を使っているので、なんとなく意味はおわかりですよね。そうです。勘違いです。この錯誤によって相続の放棄をしてしまったら、どうなるのでしょう。やっぱり放棄しない方がよかったと思って、撤回はできるのでしょうか?
 基本的にはできません。放棄の手続きは家庭裁判所で申請し、受理された段階で、効力開始となるわけですから、取り消しが認められると、相続の分割がやりなおしとなりますし、他の相続人たちが困ってしまいます。
 ただし、放棄できる場合もあります。もちろん、気分が変わったなどの理由ではできませんが、相続人が未成年であった場合などは、取り消しができる場合があります。
 例えば、未成年である相続人が、相続を放棄する場合は、法定代理人の同意が必要です。しかし、この同意を得ないまま、放棄した場合は、放棄の取り消しができることになっています。他には、詐欺にあったり、脅迫されて放棄をしてしまった場合にも、取り消すことができます。他には、被後見人が、後見人の同意なしで放棄をした場合なども、取り消しができます。
 後見人という言葉は、たまに聞くことがあるかと思います。後見人は、被後見人が、判断能力が衰えてしまった場合などに、家庭裁判所が決めた第3者もしくは家族に、財産などの管理をおこなう人のことをいいます。これについては、民法919条で定められています。
 しかし、錯誤による相続放棄は、基本的にはできません。ただし、相続の放棄を無効にしたい原因がある場合は、訴訟をおこなうことはできます。
 このように、いったん相続の放棄をした場合は、簡単に取り消すことはできないので、放棄をするときは、かなり慎重にならなければなりません。また、取消しが認められている場合でも、家庭裁判所に申述できる期限があり、追認ができる時から6か月以内に家庭裁判所におこなわなければなりません。取り消しをする場合も、やはり専門家に相談するのがよいでしょう。

民法の取り消し


 取り消しというのは、日常生活ではキャンセルのような使い方がされていると思います。
民法の取り消しは、取消をする権利を持っている人が法律行為でおこなった契約などを、取消権を行使して、「はじめからなかったこと」とすることをいいます。ですので、さかのぼって無効になります。これができる権利のことを取消権と呼んでいます。
 詐欺や脅迫などでおこなった意思表示は、取消ができます。取消権を行使することができます。
 取消しは、制限行為能力者がおこなった法律行為などで使われることが多いです。
 この制限行為能力者という言葉は、あまり聞かないですよね。未成年・成年被後見人・被保佐人・被補助人など人のことをいいます。
 未成年の場合は、成人するまで、法律行為をおこなうことが制限されていて、未成年の法定代理人は基本的には、親権を持っている親がなることが多いです。高校生などが旅行に申し込むときや、何か申込する際は、保護者の同意という欄に、親権者がサインをする場合が多いと思います。未成年は法律的な契約行為は制限されているため、契約を行う際は、親権者の同意が必要となるのです。未成年は、年齢が若く、社会経験もまだあまりないため、判断する能力が未熟であるためということからこのようになっています。
 精神上の障害によって、一定の判断はできるけれども、ひとりで決定することは難しいと判断された人のことを制限行為能力者といいます。
 未成年以外の法定代理人は、家庭裁判所で決めます。こういった人たちがひとりで行った契約などの法律行為は、同意なしで行われた場合、その契約がその本人にマイナスとなると判断された場合は、一定の範囲を取消することができます。
 制限行為能力者でなくても、いわゆる「振り込め詐欺」のような詐欺事件が後をたたないですよね。それくらい騙す人は巧みなので、制限行為能力者は、判断する能力がむずかしいのであれば、何らかの方法で、やはり守ることが重要なはずですよね。マンションなどの高額なものを、すすめられて買ってしまい、取消できなかったら、お金持ちだとしても、破産してしまう可能性もありますから。
 また、取消権だけではなく、追認する権利もあります。これは、取消権とは逆で、最初にさかのぼって有効な契約にすると認める権利です。取消は、取消するという意思を相手に伝えることによっておこないます。意思を伝えるということを、法律の言葉で、意思表示といいます。
 ですので、法律行為でおこなったことを、取消することで、最初からなかったことにするのです。
 最初からなかったというのがポイントですよね。

解約と解除について


 解約という言葉は、ふだんからよく使いますよね。マンションの契約を解約したとか、携帯電話を解約したとか、契約期間の更新時以外に解約したら、違約金が発生するなど。契約をやめるという意味で普段使われていると思います。
 では、解除とはどういう意味でしょうか?
 解除も、解いて除くと書きますから、契約を解消するので、解約と同じような意味ではありますが、解除は、契約を解除されるなど、受け身的な感じで使われることも多いのではないかと思います。
 しかし、法律での意味は、微妙に変わってくるのです。
 例をあげてみましょう。
 携帯電話を解約するというのは、現在使用している電話会社の利用をやめるという意味で使っていますよね。つまり、今までの契約をすべてなかったことにするということではなくて、解約しますと言った日以降について、つまり未来の契約をやめるということですよね。
 しかし、解除というのは、法律用語として使用する場合は、最初からなかったことにするという意味となります。つまり、さかのぼってはじめからなかったことにするということになります。
 解除は、契約しているどちらかが一方的に意思を表すことで、効果が発生するのです。つまり、解除したいと意思を相手に伝えると、まだ行われていないことは、特に問題ありませんが、行われたことがなかったことになると、それは問題です。ですので、解除する意思を表した場合、行ったことに対してなかったこととする、つまり回復する義務を負うこととなります。それができなければ、意思表示をされた側は、意思表示をした相手に、損害賠償を請求することができるのです。
 アパートやマンションを借りているとき、契約期間をはじめにきめるかと思いますが、更新という形で、契約が継続されることが一般的にされているかと思います。また、契約期間内に、マンションを借りることをやめたい場合は、オーナーに解約の申し出をおこないますよね。この場合、解約した日以降は、もうマンションを借りませんという、将来の契約をやめるということになると思います。マンション賃貸の場合、法律用語で使われる意味の解除はできないですよね。
 解約と解除は、普段の生活では、同じように思いますが、法律の世界では意味が大きく変わってくるのです。