『つなぎ融資』について
今回は,『つなぎ融資』についてお話します。
『つなぎ融資』を受ける,受けない,という話を耳にしたことがある方は多いと思います。
そもそも,『つなぎ融資』とは何でしょう?
『つなぎ融資』とは,住居を購入する際に,本来使いたい住宅ローンが実行されるまでの間に,一時的に組む(文字どおり,つなぎのために組む)別のローンのことです。
それでは,本来使いたい住宅ローンの前に,つなぎのためにわざわざ別のローンを組まなければいけないのは,どういう場合でしょうか?
『つなぎ融資』が必要となってくる場合は,主に,(1)注文住宅を建てる場合,(2)住居を買い換える場合の2つですから,以下,順番にご説明します。
注文住宅を建てる場合
住宅ローンを組んで住居を購入する場合,通常,購入する住居を担保(住居に抵当権を設定)にします。
ですから,中古マンションを購入する場合や,既に完成している建売住宅を購入する場合には,購入する中古マンションなり建売住宅なりを担保にして住宅ローンを組むことが可能なので,『つなぎ融資』は必要ありません。
『つなぎ融資』が必要になるケースは,これから新築で注文住宅を建てよう,というケースです。
建築会社に注文住宅の建築を依頼する場合,建築会社との請負契約上,着工時に着手金,上棟時に中間金,住宅完成・引渡時に残金を支払うとされるのが一般的ですから,住居完成前にある程度の資金が必要となってきます。
また,土地から購入しようという場合には,注文時に土地の購入費用等も併せて必要となってきます。
ですが,その時点ではそもそも担保とする住居が存在しないので,住居を担保とする住宅ローンを組むことができません。
こんな時に役に立つのが,一時的に資金を借り入れる『つなぎ融資』という訳です。
(なお,自己所有地に注文住宅を建てる場合,土地を担保にお金を借りられるのではという疑問がありますが,例えば5000万円の価値のある土地を担保にして3000万円の住居を建てる場合には,担保価値は十分ですから『つなぎ融資』 は必要ありません。ですが,2000万円の価値しかない土地の上に3000万円の住居を建てる場合,担保価値が1000万円分の不足になりますので,やはり『つなぎ融資』が必要になるのです。)
『つなぎ融資』は,本来の住宅ローンが実行されるまでの一時的な借入れですから,注文住宅が完成・引渡しを受けて住宅ローンが実行されれば,『つなぎ融資』の役目は終了です。
『つなぎ融資』の流れを簡単にご説明すると,まず,金融機関から『つなぎ融資』を受けて建築会社に着手金などを支払う→住宅が完成したら自己名義で所有権保存登記をする→完成した住居を担保にして,本来の住宅ローンを組む→住宅ローンの融資が実行されたらつなぎ融資を返済する,という流れになります。
住居を買い換える場合
次に,住居を買い換える時に,『つなぎ融資』が必要になるケースついてご説明します。
それまで住んでいた中古マンションなり戸建てなりの住居を売って,新たに住居を購入する場合,それまで住んでいた中古マンション等の住居を売却される方が多いと思います。
この時,それまで住んでいた中古マンション等の住居を実際に売却した後で新たにマンションなりの住居を購入する場合(これを「売り先行」といいます。)には,新たな借入れの必要はさほど生じません。
ですが,場合によっては,新居の購入が先になり,それまで住んでいた中古マンション等の住居の売却が後回しになるケースがあります(これを「買い先行」といいます。)。
この時,新居を現金で購入できる場合は問題ありませんが,新居購入の資金の充てがない場合(それまで住んでいた中古マンション等の住居の売却代金を充てる予定の場合)や新居を担保に住宅ローンを組めない場合には,やはり一時的な借入れが必要になります。
このように,近日中にそれまで住んでいた中古マンション等の住居の売却が見込まれる場合で,いずれその売却代金を新居の購入資金に充てる予定の時に,一時的に金融機関から融資を受ける場合も『つなぎ融資』といいます。
この場合の『つなぎ融資』は,売却する中古マンション等の住居の売却予想額(査定額)の7割~8割程度を先に借入れして新居の購入資金に充てた上,実際に売却できた時点で借入金を全額返済するという方法を取ります。
(それでは,「売り先行」で新居を購入すれば良いと思われるかもしれませんが,「買い先行」で新居を購入する場合,仮住まいを準備する必要がない,引越しが一度で済むなどといったメリットがありますし,住居の購入はタイミングですから,「売り先行」にしようと思っていたところ,売却できる前に希望ピッタリな新居が見つかった,ということもままあるのです。)
『つなぎ融資』の注意点
このように,『つなぎ融資』を使うと,新たな住居購入のための頭金を準備する必要がない,特に買換えの場合には,売り急ぐ必要がなく,売却金額について足許を見られる心配がないというメリットがあります。
ただ,『つなぎ融資』にはいくつか注意点がありますので,以下,ご説明します。
まず第1に,『つなぎ融資』は行っている金融機関が限られており,全ての金融機関で実施されているサービスではないということです。
住宅ローンを検討している金融機関に『つなぎ融資』も頼もうと思っていたところ,そこでは『つなぎ融資』を行っていない,ということもありますので,『つなぎ融資』を検討している場合には,査定の段階で,希望する金融機関で『つなぎ融資』を受けられるかどうかしっかり調べておくべきでしょう。
第2に,『つなぎ融資』は抵当権の設定等の手続を省略できる反面,担保を取らずに行われる融資であるため,融資金の使途先や新居の担保価値についての審査・査定が非常に厳しく,希望したからといって必ず受けられるサービスではないということです。
特に買換えの場合には,それまで住んでいた中古マンション等の住居の売却を見越して行われる融資のため,売却する中古マンション等の査定は厳しく行われ,査定段階で売却可能性が低ければ,『つなぎ融資』を受けることはできません。
ですから,中古マンション等の買換時に『つなぎ融資』を希望する場合,まずは今住んでいる中古マンション等の住居の査定をしてもらい,市場価値を十分に見極めることが必要です。
第3に,『つなぎ融資』は本来の住宅ローンを受けるための短期的な融資であるため,金利が比較的高く,融資のための事務手数料等の負担も余分にかかってしまうことです。
『つなぎ融資』の金利は金融機関によって異なりますが,優遇なしの変動金利の利率(2.5%~4%程度)を適用する金融機関が多いようです。
また,融資事務手数料は,通常の住宅ローンの事務手数料の半額程度としている金融機関が多いようですが,10万円程度は見ておいた方が良いでしょう。
この事務手数料は,本来の住宅ローンの手数料とは別途かかり,いわば二重の負担になりますので,注意が必要です。
第4に,『つなぎ融資』の返済時期についてですが,原則として期日一括弁済だということです。
ですから,注文住宅の完成時期が当初の予定より延びて住宅ローンの実行も遅れる場合や,買換えの場合に売却を予定していた中古マンション等の住居が予定時期までに売却できない時にはいずれも返済期日までに資金が準備できず,『つなぎ融資』の返済期限を延ばしてもらう必要が生じます。
注文住宅の工期が伸びる,中古マンションが予定していた売却時期に売却できない,というのはままあるケースですから,その場合には『つなぎ融資』の延長が必要となり別途金利が発生しますし,金融機関によっては新たに事務手数料が発生するので,注意が必要です。
第5に,中古マンション等の買換えの場合ですが,『つなぎ融資』は,不動産会社の買取保証とセットになっているケースが多いということです。
つまり,『つなぎ融資』の期間(通常6か月から1年以内)内に,それまで住んでいた中古マンション等の住居を売却できない場合には,提携している不動産会社による買取が『つなぎ融資』の条件となっているのです。
不動産会社による買取価格は,通常の市場価格の7割前後ですから,査定された価格より高く売却できた場合には問題ありませんが,売却に失敗してしまうと,大きく損をしてしまうリスクがあるのです。
そこで,買換えの場合に『つなぎ融資』を受けるかどうかの判断には,売却を予定している中古マンション等の住居の査定が重要となります。
売却を予定している中古マンション等の市場価値が高いという査定結果であれば『つなぎ融資』を受け,その間に有利な売却価格で売却することを目指すべきですが,他方,市場価値が低いという査定結果であれば,『つなぎ融資』を受けるかどうかは慎重に検討した方が良いでしょう。
査定結果どおり低額でしか売却できなかった,又は査定価格から下げても融資期間内に売却することができなかったということになれば,最初から不動産業者に買い取ってもらった方が『つなぎ融資』分の金利や事務手数料がかからなかったということになりかねません。
ですから,これから売却しようとしていう中古マンション等の住居の市場価値を査定してもらい,正しくその市場価値を把握しておくことが非常に重要なのです。
そのためには,必ず複数の不動産業者に査定をしてもらいましょう。
市場価値の査定は,査定を行う不動産業者によって,まちまちです。
もちろん,適正な市場価格の査定という意味では,大体の幅の枠内に収まるでしょうが,どれが適正な幅の枠内なのか,複数の不動産業者に査定してもらわなければ分かりません。
最近では,一括査定を行えるサイトも充実していますから,是非,そういったサイトを活用し,適正な市場価値を査定・把握しておきたいですね。